社員が自己破産したら解雇や異動は可能?対応方法や注意点を解説
社員が自己破産した場合、ギャンブルや浪費などが原因と考え、会社への悪影響を鑑みて解雇したり異動させたりすることを検討する場合があります。しかし、自己破産が会社の業務と関係がない場合、このような対応は法的には認められません。
本記事では、社員が自己破産したときの解雇や異動、対応方法について詳しく解説します。
自己破産を理由に通常は解雇や異動は命じられない
労働契約において、社員のプライベートな事情は基本的に影響を与えない原則が適用されます。そのため、自己破産や多重債務に見舞われても、それだけでは解雇の理由となりません。
例えば、債権者から職場に頻繁に電話がかかってきて業務に支障が出たとしても、これが社員本人が直接引き起こしたものでない限り、解雇の対象にはなりません。
解雇や異動を命じられるケースもある
社員が自己破産をした場合、解雇や異動を命じられるケースもあります。詳しく見ていきましょう。
信用が重要な社員
信用が極めて重要な業務に従事する社員や、使用人兼務役員(部長や課長などの職制上の高位ポジションを持ち、かつ実際に職務を遂行する者)、また会社の幹部で高度な信頼関係が求められる場合、雇用契約や誓約書に「自己破産の際は退職とする」といった合意事項を盛り込むことで、自己破産が発生した場合に解雇できる可能性があります。
具体例を挙げると、信用が極めて重要な金融機関の融資担当者や、企業の経営層で特に高い信頼性が求められる執行役員などが該当します。これらの職種では、社員の信用が業務遂行に直結し、取引先や顧客との信頼関係が非常に重要とされます。そのため、自己破産が発生すると、これらの職務に就く者に対する信頼が揺らぐ可能性があり、企業側はそれを回避するために自己破産時の退職を契約上規定していることがあります。
資格制限で特定の職業に従事できなくなる
破産手続きが始まると、一定期間、資格制限が生じ、特定の職業に従事できなくなる可能性があります。この制限は「復権」まで続き、慎重な対応が必要です。資格がなければ行えない業務に従事している場合、配置転換が困難な場合においては解雇を命じられる可能性があります。
資格制限が解かれた後、業務に必要な登録が取り消されても、再度登録を行うことで資格に基づく仕事を再開できますが、登録取り消しの場合、再登録までに時間がかかることがあります。
復権には二つのパターンがあります。1つ目は、破産手続きが進み、借金返済義務が免除された場合に自動的に解かれる「当然復権」で、2つ目は親族からの援助により借金を完済したときなど、破産者が主張を行うことで認められる「申し立てによる復権」です。
資格制限が解かれるまでの期間や手続きは状況により異なります。
業務に支障をきたす可能性がある
通常、一般社員においては自己破産だけが解雇の理由とはなりませんが、特定の状況下では合理的な解雇理由とされることがあります。例えば、同僚に対して保証人を頼んでおり、同僚に経済的損害を与えた場合や、金銭上の信頼が業務に不可欠な場合などです。
同僚に保証人を頼んだ結果、同僚に相当な損害をもたらした場合、人間関係が悪化し、職場内の協調性が損なわれる可能性があります。また、金銭上の信頼が業務に必要な場合、自己破産によって業務上の信頼性が低下し、安全管理上のリスクが生じるかもしれません。
ただし、具体的なケースにより異なりますので、解雇が正当かどうかは事例ごとに慎重に判断されるべきです。
権利濫用でなければ人事異動は可能
自己破産に陥った社員に対して、人事異動を命じることは可能です。自己破産は社員の個人的な事柄でありつつも、業務運営上の都合から社員の勤務地や業務内容を変更することは、会社の人事権として合法です。
社員に著しい不利益が生じない限り、自己破産した社員を異動の対象にできます。この異動が直ちに権利濫用となることはありませんが、実務的には慎重な対応が求められます。
会社は人事異動の命令権を有しており、明示的な理由を提示する必要はありません。一般的に「業務上の必要性」といった理由で十分です。
まとめ
社員が自己破産した場合、解雇や異動が検討されることがあります。しかし、信用が極めて重要な場合や、誓約書で「自己破産なら退職」と合意している場合など、さまざまな条件下でなければ解雇はできません。
会社側が取るべき対応としては、解雇が可能な状況かどうかを確認するとともに、必要に応じて異動させるべきかどうかを判断することです。誤った対応は労働問題に発展しかねないため、このような問題の解決や対応を得意とする弁護士に相談することをおすすめします。
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